「オメラスの神庭~弐ノ噺、鳳墨~」SS

※「オメラスの神庭~弐ノ噺、鳳墨~」の後日談になります。


襖を指でコツコツと叩いても反応はなく、そうっと静かに開いてみる。
室内が夕暮れの橙で満ちる中、神代サマはすやすやと寝息を立て布団に包まっていた。

「あー、っと……寝ちまったか、神代サマ?」

俺の精液はとっくに摂らせ終えた後のこと。口内の味を紛らわせたいと零した神代サマの言葉を拾い、果実水を拵えてやった。
のだが……それを受け取るべき本人は、俺が傍に屈み込んでも、頬をちょいっと突っついても起きる気配がない。

(良く寝てんなァ。こりゃ、起きたらコレも作り直しだ)

搾りたての果汁の酸化は早く、淀み始めた薄桃色に小さく苦笑する。
いくら秋風で涼しい室内とはいえ、コイツが起きるまではもたないだろう。仕方なく、女子供向けの甘さに眉根を寄せつつ一気に飲み切った。

コトリと茶器を枕元に置き、身を乗り出して神代サマの布団をかけ直してやる。
と、その唇の端にこびりついた白濁に気付く。明らかに行為の跡を示すそれに苦笑を浮かべつつ、指で拭ってみる。
可愛い寝顔だけど、こんなモンが付いてちゃ台無しだな。
などと思いながらも唇を指に滑らせると、ぷにりと頼りない弾力が跳ね返ってきた。

(っと。面白がってコイツで遊んでたら、また妙な気分になっちまう)

ぷにぷにと唇を押し返せば、蘇るのは精を摂らせた口淫の真新しい記憶。
思わず頭を擡げかける俺自身のモノを鎮めつつ、今はそうじゃねーだろと襟足を掻いた。
と。よくよく見ると神代サマの眉根には皴が刻まれており、額にも薄い汗が滲んでいることに気付く。

(うなされてるみたいだ……悪い夢でも見てんのか……?)

意志を訴えるには弱々しい、けれど切なくも不安げな呻きが絞り出される。
被せてやったばかりの布団が身動ぎではだけ、あぁだのうぅだの辛そうな声音が鼓膜に届いた。

そっとしておいてやるべきか。けれど、それではコイツの夢は不快なままだ。
夢を操る超能力などはない俺だが、それでも何か施したくて……神代サマの唇を今一度、ふに、と突いてみた。

――んっ、と、ほんの少しの甘やかな声音が零れる。
その声がよく知った甘さを孕んでいて、ほっと安堵する。快楽で気が紛れたのだろうか、神代サマの表情がいくらか緩んだ気がした。

だとしたら、俺にできることは……もっと気を紛れさせてやるぐらいだ。

神代サマに覆い被さり、起こさぬように顔を近づけ……啄む程度に唇を寄せる。

「っ……は……」
「…………」

最初は遠慮がちな口付けを落とす。
やがてそれを少しずつ深め、確かな快楽を与えてやる。夢を見る程度であれば眠りは浅いはずだが、神代サマが起きる気配はない。けれどゆっくりと抉じ開けた口内で、神代サマの小さな舌がぴょこんと突き出された。

(はっ、寝てても条件反射で舌を差し出してきてんの。よく調教してやったというか……可愛いよなぁ)

自身の劣情や嫉妬を腹ン中に押し隠し、再びの快楽をもたらしてやる。
ご丁寧に差し出された舌を絡め取り、優しく吸い上げれば、神代サマの小さな肩がぴくりと快楽に震えた。

(……ほんっと、可愛い)

口付けの合間、ゆるゆると胸の膨らみを撫で擦ってみる。
布地の下で勃ち上がりかけた小さな果実を指先で捉えると、弱々しくも艶を孕んだ喘ぎが漏れた。
そうだ、神代サマはそれでいい。
いー声で啼いて、甘ったるい夢を見て、御先の俺が施す愉楽に流され続けていればいいんだ。
けして起こさないようにと愛撫を加減しつつ、緩く勃ち上がった突起にも舌を這わせる。ちゅ、ちゅ、と優しく吸い付くたびに固く尖り、起きている時と違わぬほどの膨らみを見せた。

(こんな誤魔化しぐらいしか、俺にはできねぇ。悪ィな、神代サマ)

胸の内で呟いても神代サマは応えない。
詮無い思案を終えれば、俺は再び、秘めた思慕を押し殺しつつも夢心地の愛撫を与えるだけ。

けれど、俺は心からそれで良かった。





written by おーね