「オメラスの神庭~弐ノ噺、鳳墨~」SS②

※「オメラスの神庭~弐ノ噺、鳳墨~」の後日談になります。


じっとりと湿った室内の空気も落ちついたようだ。交接の名残を整えようとする吐息だけが、緩く後を引くように響いている。

俺は肌身を晒したまま横たわる神代サマを眺め、仄赤く染まった頬を指で押した。

「ははっ、まだシたすぐ後だからここも熱いなァ」

柔らかく、熱く、果実のように滑らかな肌の感触をぷにぷにと楽しむ。
ん、と甘い声をあげながらも無抵抗に弄ばれていた神代サマだが、漸くぷくりと頬を膨らませて拗ねてきた。

「悪い悪い。ぷにぷにして面白かったもんだからよ」
「っ、……」
「そんなに拗ねた顔すんなよ。で、もうセーエキは満腹か? もし足りねーっつーんなら、もー一発……」
「~~、~~!」
「っと、だから冗談言ってわりーって!」

ぽかぽかと、頼りなく裸の胸を叩かれる感触をひとしきり楽しむ。

(それにしても、怒った顔もかーいーんだよな、なんてよ)

役割も忘れ、デレデレと神代サマの膨れる頬を眺める。
素直でからかいがいがある今の彼女は、不敬を恐れずに言うなら『等身大のオンナ』に見えた。

……ついつい更なるイタズラをしかけたくなった俺は、ひとつの嘘を言葉に乗せた。

「そういや、神代サマには言ったことがなかったが……」

神代サマに向けて身を乗り出し、にんまりと笑みながら続ける。

「兎ってのは万年発情期なんだ。だから今も、体が疼いて仕方がねぇ」
「!!」

なんて、もちろん嘘だけどな。
そうとも知らずに神代サマの目が大きく開かれ、顔が一気に朱に染まる。
驚いて後退った彼女の様子を眺めながら、その効果にくっくっと笑みがこぼれた。

(たまにはコイツのくるくる変わる表情も見てーし、このぐらいなら構わねぇだろ)

神代サマの様子をひとしきり楽しんだあと、とっとと種明かしをしようとした俺だが、ふと……神代サマが何かを決意したかのように、ぎゅうっと手を握ってきたことで虚を突かれる。

「な、なンだよ神代サマ……どうかしたか?」
「…………」

平静を装おうとする俺の鼻先まで顔を寄せた神代サマが、ちゅっと触れるだけの可愛い口付けを俺に贈ったあと、身を離し……。

――自分にできることなら、してあげたい。

ほとんど性交の同意を示すその言葉が、そのお綺麗な唇から零された。

今度は俺の方がぽかんと口を開け、呆然としてしまう。その間にもじっと見つめてくる彼女の瞳から伝わるのは、純粋な献身で。
その想いに胸を鷲掴みにされつつも申し訳なくなり、俺は冗談だと口にしかけて……。

(…………)

ふと、自分に悪戯な言い訳を許す。
緊張で固まる神代サマの衣服を寛げたあと押し倒し、俺の表情が判らないように覆い被さった。

「悪いな、神代サマ」

それは二重の意味を込めた謝罪。
この行為を終えてから、嘘を明かしても遅くはないなどと内心で嘯く。一度だけ、せめてこの一度だけは、神代サマからの能動的な承諾に甘んじたって罰は当たらないと思いたい。

(どうしようもねーな、俺は)

などと反吐を吐き終えた俺は思考を放擲し、差し出された熱く柔らかな首筋にかぷりと齧り付いた。





written by おーね