「オメラスの神庭~壱ノ噺、榴白~」SS②
“こんな素晴らしい場所、まるで楽園のようだ……って、それ本気で言ってるの?”
ある御先に言われた言葉が反芻する。
じゅる、じゅる、とはしたない音を立てながら、今日もまた神代様の秘所から溢れる蜜を舐め啜る。女性が分泌する愛液が甘いというのは、本来ないことらしいのだが、どうしてか甘く感じる。
おいしい、もっと飲みたいと、欲望に流されるまま舌で執拗に蜜口を嬲れば、蜜ほど粘着性のない液体が勢いよく噴き出した。
この世界では咎められることも、責められることもないのに、神代様は赤く染まった顔を隠すように腕で覆い、体を震わせている。
「ああ、もう達してしまわれたのですか? ふふ、随分と快楽に弱くなりましたね」
耳元で囁けば、違う、と小さく呟かれた。
淫らな体になってしまえばいい、その考え自体は変わっていない。けれども、いざ変化の兆しを目の当たりにすると、一抹の寂しさも感じる。
それはつまり、私以外のオスとも情交に及んでいるということ。
神代様との授受は、この小さな世界の決まり事であるから、仕方ないとわかっていても……
(……独占欲なんてものが、私にもあったのですね)
この可愛らしく、そして淫靡な姿を他の誰にも見せたくない、見せて欲しくない。
そう思ってしまった。
“こんなクズみたい世界で、神代とかいう女に仕え続ける?”
“傅いて、夜伽のような真似事をして、ご機嫌を伺って……馬鹿馬鹿しい。
“与えるばかりで、何の見返りもない。そんなの……ごめんだね”
あの御先はそう言ったが、自分には見返りがあった。
ここにいられること。
この小さくとも温かな世界に居続けられること。
――どんな形でも神代様の傍にいられること。
ああ、そう考えると、それ以上を望むのは欲深いのかもしれない。
今は、まだ。
榴白。
小さな声で名を呼ばれ、ハッと我に返る。
神代様に視線を移すと、持て余した熱に苛まれ、困ったような顔をされている。
「……申し訳ありません。続きを致しましょうか。もっと、たくさん飲ませて下さいね」
ドロドロに溶けきった肉襞に再び唇を寄せた。そうして今日もまた、愛しい存在をこの世界の色で染め上げてゆく。
――――神代様の目には今……この神庭はどのように映っていらっしゃいますか?
自分にとっては楽園ともいえるこの場所。
ここが私にとって唯一無二の場所であるように、快楽に染まり切った神代様にとってもまた、この檻が無くてはならないものになると願って。
End.
written by 義ヰ(Duosides)
こちらも気付けば、榴白編を書いた時からまるっと1年が経ちました。更新が中々遅くて申し訳ありません……まだまだ書きたい事もたくさんあるので、引き続き何卒よろしくお願い申し上げます!