「XXXPrince~Hexenhaus」SS
窓から差し込んでくる飴色の光に、夜の訪れを感じる。
「はぁ……はぁはぁ……出すよ……っ。くっ――――」
繋いだ指先に力を込め、あいつの身体の一番奥に欲望を叩きつける。
何度目かの絶頂に、妹の顔は蕩けきっていて、言葉を紡ぐこともままならない。意味のない声だけを漏らして、びくびくと身体を震わせた。
「……ねぇ、もう一回してもいい?」
涙でぐちゃぐちゃになった妹の顔を覗き込みながら、甘えるような声音で言うと、妹の唇が薄く開いた。答えはどちらだろう。期待のこもった眼差しで見つめていると――――妹の腹の虫が盛大に鳴った。
「…………」
僕とあいつの間に落ちた沈黙を狙ったように、窓辺で小鳥が囀った。
今の今までお互いがお互いに夢中だったせいだろうか。自分達以外のひっそりとした存在に気づいて、妹の顔がみるみるうちに羞恥で赤くなっていく。
「……ふっ、ははは。このタイミングで普通鳴る?」
笑いを堪えられなくなって、声を立てて笑った。
もう一度、身体を重ねる雰囲気ではなくなってしまって、僕はゆっくりと肉棒を引き抜く。
ごぽっ、と音を立てて大量の精子が溢れだして、勿体ないと思った。折角たくさん注ぎ込んだのに。
「お前ってすぐお腹空かせるよね。前にもこういうことあったし」
妹は顔を真っ赤にして、消え入りそうな声でごめんなさい、ごめんなさいと繰り返し詫びる。
別に怒っていないのにそんな風に謝られたら、妹ももっとセックスをしたかったんじゃないかと期待してしまう。
食事が終わったらもう一回抱こう。
密かにそう決めて、あいつの頭をくしゃりと撫でた。
「それで今日は何が食べたい? まあ、作れる物は限られるんだけど」
放り投げてあった服を手に取りながら、夕飯は何がいいだろうと思案を巡らせていると、妹がぽつりと呟いた。
――――自分と比べてお兄様はあまり食事をしないね、と。
「え? お前といつも食べてるだろ?」
怪訝な視線を向けると、そういう意味じゃなくて……と妹は一瞬口籠もってから、一つひとつ言葉を選ぶように続けた。
これまで一度だって空腹を訴えたことがないこと。
いつだって食事のタイミングは、妹の空腹が合図だったこと。
――――お腹空かないの?
純粋な目でそう問われて初めてまったく空腹を感じていないことに気がついた。
おかしいな。今日だって朝しか食べていないのに。
もしかしたら、食欲というものが人より薄いのかもしれないとその時、初めて思い至った。
一度だって自分のために料理をしたことはない。
いつだって妹のために作っていた。
美味しいという言葉を、妹の口から聞くだけで満たされた。
僕の作った物で妹の身体が作られているのだと思ったら、堪らなく興奮した。
だから、決して食に対する欲求が皆無というわけではないのだと思う。
ただ、その欲望が向けられる先が自分ではないというだけで。
それでも不思議と満たされているのだから、おかしい。思わず、喉の奥でくつくつと笑うと、あいつはきょとんとして僕を見つめた。
「……お前は僕をなんだと思ってるの? 僕だって人間なんだからお腹だって空くよ。ただ、僕の腹の虫はお前のより静かなんだよ、たぶんね」
そう言うと、妹はムッとして、どうせ私は食いしん坊ですよと拗ねてしまった。そんなところも可愛くて、思わず膨らんだ頬を指で突いた。
柔らかな感触に舌舐めずりする。
――――どうせ食べるなら、こいつがいい。
「食いしん坊でいいよ。僕はそのほうが嬉しいし。お前がたくさん食べてくれるのが何より嬉しいんだから」
End.
written by 千崎郁未